4章 食生活指導の実際
1)まず食事を作ることから始めよう!
  若い歯科衛生士の皆さんの中には、ほとんど食事を作ったことがない人もいるのではないでしょうか?一方、歯科医院にお子さんを連れてくる若い母親は、毎日家族のために食事を作っています。食事を作ったことのない人が、毎日作っている人に指導する可能性があるということです。食生活指導について学ぼうと思ったら、独学するしか方法がないかもしれませんが、ある程度勉強しなしと患者さんに自信を持って指導することはできません。食事は患者さんやその後家族が自ら作らなければならないものですから、買い物の仕方や作り方を伝える必要性が生ずる可能性もあります。したがって指導するにはある程度自分で食事を作る経験も必要になってきます。
2)食生活指導は難しくない
  一昔前までは、主食はご飯、副食もおおよそ想像することができました。そのため、肉や揚げ物に偏らず、魚介類や野菜を中心に、という提案や、可能な限り農薬や食品添加物を避けることを勧めていたように思います。つまり副食の指導をしていたのです。
 しかし最近では、主食もバラバラ、副食や間食になるともっとバラバラになっています。つまり副食の指導が必要な患者さんはめったにいなくなってしまったということです。 副食は肉や卵、魚介類、野菜、海草、豆類、いも類などと多岐にわたり、料理法も様々です。説明するにはかなりの時間と手間が必要になります。指導するにもある程度勉強して詳しくならなければなりません。
 今日ではそのような高度な指導をする必要がほとんどなくなっています。食生活指導が極めて簡単になったのです。食事や栄養についての専門知識など身につけなくても、食生活指導ができる時代になってしまったのです。
3)食生活指導は子どもの全身と未来のためのもの
 ●手の届かない提案は「何もするな」と言っているのと同じ
  現代社会の中で、良い食生活をしようとすることは決して簡単なことではありません。時間的にも経済的にも、社会環境的にも限界があります。したがって「提案」には十分な注意が必要です。
  「白米には栄養が少ないから玄米にしなさい」「食品添加物の入ってない食品を購入しなさい」などと指導している例がありますが、それはたとえ正しい指導だとしても、時代を間違えているように感じます。手の届かない提案は「何もするな」と言っているのと同じことです。
 ●食生活には優先順位がある
  食生活を見直すということは、家を建てることと似ています。家には土台や柱、屋根があり、じゅうたんやカーテンがあります。じゅうたんやカーテンも大切ですが、それらはなくても生活はできます。しかし家の土台や柱はなくなったら生活ができないのですから、手を抜くことはできません。
  食生活にもはっきりと優先順位があります。これを逆にすると手間もお金もかかり大変です。優先順位を間違わないようにしたいものです。
 ●食生活指導は全身(心)への提案
  食生活指導は子どもの全身(心)に対するものなのです。食事そのものの指導を抜きにした間食の指導などありえません。
  成長期の子どもがしっかりご飯を食べていなかったら、どこかで熱量を摂らなければならないわけですから、甘いお菓子やジュースを欲しがるのも当然のことです。パンを主食にしていたら、空腹になるのも早くなります。主食をご飯にするかパンにするかで、お菓子やジュースを欲する可能性は全く違ってきます。ですから、まず主食の指導をしないと間食の改善は望めないでしょう。
 ●口腔内だけではなく全身と心のための食生活指導を
  歯科の本などを見ると「砂糖は1日○gまでにしましょう」と書かれているものがあります。歯や歯周組織にとって適量だとしても、全身にとってはどうなのでしょうか?
  現在の子どもの健康に、砂糖と同じくらい大きな影響を与えるのは油脂類の摂りすぎです。油脂類の摂りすぎと歯や歯周組織との関係についてはよく分かりませんが、もしかしたらそれほど関係はないのかもしれません。
  しかし子どもの全身や心を考えると、砂糖の摂りすぎよりも大きな影響があるのではないかと考えています。間食指導の際、そのことを抜きにして、砂糖の入ったお菓子やジュースだけを指導するのは偏っているように思います。咀嚼の問題に対しても「よく噛みなさい」というよりも、咀嚼せざるを得ない食生活を提案することの方がはるかに大切ではないでしょうか。食生活指導は子ども達の全身と未来のためのものです。
 ★子どもの食生活―8つの提案
  ①子どもの飲み物は水・麦茶・ほうじ茶  ⑤副食の基本は野菜、海藻類  
  ②朝ごはんをしっかり食べさせる    ⑥動物性食品は魚介類を中心にする
   ③子どものおやつは食事         ⑦未精製の米を常食する 
   ④カタカナ主食は日曜日に        ⑧食品の安全にも配慮する