先日、某毎日新聞を読んでいましたら、第141回芥川賞を受賞した磯崎健一郎氏が書いた「芥川賞を受賞して」というコラムに出会いました。磯崎氏が小説を書くようになったいきさつが書かれていて、なるほど、こんな出会いがあったのか思いました。そのいきさつに関しては新聞に譲るとして、その文章の中に出ていた「シュバルの理想宮」の話には、はっとさせられました。磯崎氏の文面を参考に簡単に説明します。
 シュヴァルは一日に何十キロも歩いて手紙を届ける郵便配達夫だったのですが、43歳になったある日、石にけつまずいて転びそうになります、その石を拾い上げしげしげ見てみるとあまりに面白い形をしていたので、家に持ち帰りそれからは毎日ひたすら石を集め続けました。集めた石は積み上げて、ついには死ぬまで33年間をかけて理想宮と呼ばれる巨大な城を築き上げたという19世紀末の実話なのですが、、、インターネットで見た、この理想宮は、現存していて今や、フランスの重要建造物になっているとか。石ころを集めた(とは思えないほど素晴らしいのですが)この建造物が物語るものは、たった、と言えるものが或る出会いにより継続と情熱によって信じられない結果をもたらすということでしょう。やはり磯崎氏のいきさつを書かざるをえませんね、磯崎氏はこのシュヴァルの石を、小説家の保坂和志氏にたとえています。つまり、かつて駅の乗換駅の本やで偶然買った小説家保坂氏の小説につまづき、それを手に取った磯崎氏は、それまで生きてきた過去の時間が新たに開かれたドアに流れ込んでいくような、抗しがたい魅力を感じ、そして小説家になり、シュヴァルの理想宮ならぬ芥川賞を獲るに至ってしまった。磯崎氏は最後に「だから私もシュヴァルを見習って、これから何十年もかけて石を積み上げていかねばならない」と結んでいます。
今、思い浮かべてみると、私にとってのつまずき石は、歌だったのかな?と思えるのです。これからもずっと歌い続けて行きたいと思う今日この頃です。
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