このCDは、鍵盤楽器の領域のシリーズに入っているので、紹介しないわけにはいかないのですが、困ったことに作曲されたのは19世紀初期、自分の決めたカテゴリーには合致しないのです。(まあ尤も、既に何例かで掟破りはしているのですが、、、、)堅いことは言いっこなしということで。作曲者はFrantz Schubert(シューベルト1797~1828)まあ、18世紀中に誕生しているので良いとしましょう。このシューベルト、言わずと知れた天才の中の一人ですが、僕自身にとってはドがつくくらいの天才と言ってもよい作曲家です。31年というほんとに短い生涯の中でこれだけ美しいメロディーをたくさん創造した人は居ないでしょう。あのモーツアルトの作品の最終番号が626(K.626レクイエム未完)35歳で没、シューベルトの作品の最終番号はD.998。小さな歌曲も一つに数えますので単純に比較してはいけませんがとにかく凄いとしか言いようがありません。
 さてこのCD武久源造さんが弾くシューベルトです。凝ってない訳がない訳で、使用楽器が、マテウス・アンドレアス・シュタイン ウィーンという楽器なのですが、なんと製作年が1820年(頃)つまりはシューベルトが生きていた時代の名器ということになります。それもウィーンですよ。実際にシューベルトが弾いたかもしれないフォルテピアノなのです。マテウス アンドレアス シュタインはピアノ製作者ですが、ちょっとライナーノートから紹介します。マテウスアンドレアス シュタインの父はアウグスブルクの有名な鍵盤製作家ヨハン・アンドレアス・シュタインである。彼はモーツアルトにそのピアノの性能を高く評価されていた。また姉のナネッテ・シュトライヒャーも当時ウィーンの代表的なピアノ製作者であった。彼女と親交があったベートーベンの存在もまた楽器の改良において大いに影響を与えた。弟のシュタインもベートーベンのピアノを管理したという記録が残っている。
と言う、天才ピアノ製作者が作った音が現在にそれもシューベルトの曲で甦るのである。なんか興奮します。即興曲作品90と作品142の2曲が収録されていますが武久さん自身が、シューベルトに「はまってしまった」ためにこのCDができたことを説明してくれています。
やはり深く優しい演奏です。どうしてこういう演奏ができるのか?不思議ですがこの世に存在することは確かな訳で、それを居ながらにして享受できる幸せというものを感じずには居られません。
ALCD-1019