チェロを本格的な独奏楽器として扱ったのは、そう『四季』であまりにも有名なヴィヴァルディ(1678~1741)なのだそうです。これら一連のヴァイオリン協奏曲はあまりにも有名ですが、ヴィヴァルディはチェロと弦楽のための協奏曲を7曲、2つのチェロのための協奏曲を1曲、チェロと通奏低音のためのソナタを9曲、その他、協奏曲を数曲,と分っているだけで27曲の作品を書いています。ヴィヴァルディがなぜ,当時まだ一般的でなかったチェロを取り上げたのか,いつ誰のために多くの作品を書いたのか実は謎が多いのだそうです。1704年、ヴェネツィアのピエタ養育院(少女孤児院)でヴァイオリンの教師に,翌年楽長に就任したヴィヴァルディはヴァイオリンだけでなく合奏、合唱の実技指導、指揮をまかされ,また学院のために宗教儀式やコンサートの曲をたくさん作曲しました。多くの宗教曲、室内楽ソナタ、ヴァイオリン協奏曲はこのようにして生まれました。しかし、当時チェロの名手がいたという記録は残っていません。作曲家は,演奏されない曲は書かないのが常です.特にヴィヴァルディのように学院用の作曲に時間がとられていたであろう時期に,当時一般的でなかったチェロの作曲を余興でするとは考えにくいのです。そこででてくる名前が,ドイツのヨハン・フィリップ・フランツ・シェーンボルン伯爵。チェロが趣味の息子、ルドルフ・フランツ・エルヴァインの為に曲を集めるべく音楽家フランツ・ホルネックをヴェネツィアに派遣したという記録があり,事実、シェーンボルン所蔵の資料の中にはヴィヴァルディが1708~13年に書いた7つのチェロ手稿譜が残っているそうで、依頼によって書かれた可能性が高いのです。また,当時チェロの名手であったドン・ジュゼッペ・ヴァンティーニが1720年秋から翌1721年春までピエタでチェロを教えたのですがこの時期にやはりヴィヴァルディはチェロのための作曲をしているのです。CDには7曲の協奏曲が収録されていますが,さすがヴィヴァルディという作品ぞろい。長調3曲、短調4曲。全体的に暗く激しい曲が多いのですがヴィヴァルディの心の中に渦巻いていた情念がひしひしと伝わってきます。いずれは,私自身も挑戦しなくてはいけない作曲家ですが、いつになる事やら、、、
 演奏はベルギーのバロックチェロ奏者のロエル・ディールティエンス。ブリュッヘン(この人も次回ご紹介しなくてはいけません!!乞うご期待)の18世紀オーケストラの主席チェロ奏者を務め,この巨匠から絶大な信頼を得る彼はソリストとしても高度な技巧と伸びやかな感性の光る演奏で知られています。このCDでも充実の演奏を聴かせてくれています。
KKCC-427 harmonia mundi