その8 おいしい訳

唐澤 るつ子

挿絵日本語には、食品の美味を表現する語彙(い)が少ないと言われます。 他国の言語を知らないので、そのへんはつまびらかではないのですが、 “おいしい”“うまい”以外にどんな表現があるのでしょう。

そんなこともあってか、テレビで、リポーターや、タレントが物を食べるシーンで、 ジェスチュアーも交えての「うん、うん」とか、「うーん」などの感嘆符がまずあって、 そのあと「口あたりがさわやか」とか、「ジューシー」とか、「もっちりしている」などの 食感で表現されている場合が、多いような気がします。 (まあ、何とか言わなければならない彼等の気持ちもわからなくはありませんが)

ところで、この食感も歯が悪かったらどうでしょう。 “たくあん”の項でも述べましたが、味は、舌の味蕾(らい)だけで味わうものではないと思います。 確かに感覚としてはそうなのでしょうが、かみしめることにより一層それが深まると思います。

ボランティアとして、老健の施設でミキサー食を入所者に供したことがありますが、 おせじにも「おいしい?」などとは言えませんでした。

人間の脳が受ける刺激のうち、約40%は口が関係していると言われます。 よくかみ、栄養を取り入れ、味覚を味わいたいと思います。