SKFのホームページより転載いたします。小澤さんがこの曲にかける意気込みを発信してくれました。
「戦争レクイエム」に関する小澤征爾総監督のコメント
 僕が知っている限りでは、ブリテンの「戦争レクイエム」は第二次世界大戦に最も密接に関係のあるレクイエム(鎮魂歌)です。設定は、教会を代表するカトリックの音楽がコーラスと女性のソプラノ。テノールとバリトンは敵対する2人の兵士で、テノールが米英仏側を代表するイギリスの兵士で、バリトンがドイツの兵士、つまり独伊日側を代表しています。そして大きなオーケストラがカトリックの音楽の伴奏をし、室内オーケストラが2人の兵士の伴奏をします。2人の兵士、つまりバリトンとテノールの歌は、歌と言うより、むしろ語りに近く、最高潮の所は特にそうです。子どものコーラスは天使の声を表していて、敵対する兵士のやりとりの後に、天使の合唱に始まるカトリックのコーラスで、最後は祈りで終わります。この祈りも決して静かな祈りではなく、叫びの祈りで、世界第二次世界大戦を生々しく描いた音楽と言えます。ですからこの作品が初演されたときはとてもショックでしたし、僕自身は、あまり政治的な音楽は好きでないので、この作品を自分が指揮することは考えませんでした。でも僕の尊敬するロストロポーヴィチがこの作品を大変高く評価していました。それにブリテンはソプラノ歌手でロストロポーヴィチ夫人のガリーナさんを念頭に置き「戦争レクイエム」を書いたんです。初演でドイツの兵士役であるバリトンを歌ったのは当時の第一人者のフィッシャー・ディースカウ、イギリスの兵士役がテノールのピーター・ピアーズでした。ピアーズはブリテンの公私にわたるパートナーです。
 僕が初めてこの作品の生の演奏を聴いたのは、カーネギー・ホールでブリテン自身が指揮をした時で、ロストロポーヴィチにどうしても聴きに行けと言われたのです。これがブリテンの最後の指揮だと言われていたコンサートでした。実際にそうだったかどうかは知りませんが・・・。3人の歌い手はバリトンとテノールは初演の時と同じで、この時のソプラノはガリーナでした。僕はロストロポーヴィチと一緒に客席で聴きました。非常に感動的なコンサートでした。
 初めて僕が実際に指揮をしたのはそれから数年後で、日本で日本語版を指揮しました。その後、ベルリンやボストンで原語版を何度もやりましたが、ロシアでロストロポーヴィチとロシア語版の指揮をしたこともあります。僕は室内オーケストラを指揮していて、お客さんから近い所にいるので、みんながすすり泣く声が聞こえて驚いたのを覚えています。そういった意味で「戦争レクイエム」は、僕に音楽の持つ力を改めて教えてくれた作品であり、個人的には音楽として、これがブリテンの最高傑作だと思っています。「戦争レクイエム」は音楽として、大変深いのです。メンデルスゾーンの「エリア」にも同じようなものを感じます。色々な歌手と何度もこの作品を演奏してきましたが、バリトンのベンジャミン・ラクソンとの共演を特に印象的に覚えています。彼の歌は本当に感動的でした。
 今年の松本ではオーディションで選ばれた子供たちのコーラスが参加してくれます。 サイトウ・キネン・フェスティバル松本では過去にも何回か子供たちのコーラスが参加してくれていますが、今年は今までより歌い甲斐のある作品だと思います。空の上から聞こえる天使の声のように、子供たちが声高らかに歌ってくれることを楽しみにしています。小澤征爾
聴きどころ
戦争レクイエム
「戦争レクイエム」は、20世紀イギリスの生んだ大作曲家ブリテンの代表作。通常のレクイエム(死者のためのミサ曲)のラテン語典礼文と、イギリスの詩人W. オーウェンの反戦詩とを組み合わせて、第2次大戦の犠牲者への追悼と平和の希求を表現した大作だ。小澤征爾はかなり以前からこの作品を、ボストン交響楽団をはじめ様々なオーケストラで取り上げてきたが、今回サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)との演奏が実現することとなった。管弦楽パートが大編成のものと小編成のものに分かれるというやや複雑な編成による大作だけに、指揮者とオケとの意志の疎通が重要となるが、その点で小澤&SKOのコンビはまさに理想的。小澤の信頼する3人の独唱者、そして東京オペラシンガーズと栗友会合唱団に松本でのオーディションで選ばれたSKF松本合唱団とSKF松本児童合唱団も加わった大合唱団とが一体となって、戦争の恐怖と平和への祈りを歌い上げてくれるだろう。世界的にきわめて不安定な情勢にある今、サイトウ・キネン・フェスティバル松本がこの作品を取り上げる意義は大きく、改めてこの傑作に込められた切実なメッセージに耳を傾けたいものである。
(寺西基之)