63.で少し弱気になった18世紀以前を又堅持すべく古いものをご紹介致します。実は今日診療室で聞いていたのですがやはり歌声がハーモニーしているのを聞くのは非常に心地よいのです。
 ルネサンス最盛期に一大勢力を成したのがフランドル楽派と呼ばれる音楽家たちでした。デュファイに始まるこの楽派の黄金時代を築いた代表的な作曲家がイザーク(HEINRICH ISAAC c.1450~1517)です。
つまり、このCDに収録されている曲は500年以上前に誕生した曲ということになるのですが、歌詞の訳を読んでみると、人間の営みとは時代を超えても変わってないなと思います。恋の歌、悩みの歌、嫉妬、いさかい、自然や故郷への郷愁、賛美、等々、、、イザークが人間の変わらざる本質に暖かく目を向けている作曲家だったことが解ります。ヨーロッパの人々は今もなおイザークの作品を好んで取り上げていると言います。インスブルック冬季五輪閉会式でこのCDのタイトルになっている『インスブルックよ、さらば』が歌われましたが、現代に暮らしている人間が、かって素朴な感受性を持っていたイザークの時代への郷愁を感じるからではないでしょうか。
収録されている最初の曲の題名はなんと「お前、身持ちが、、」対訳を記します。
「お前身持ちが悪いんじゃないかい」
「母さん、それを押さえることなんてできないわ、だって時が経てば自然にそうなるものよ」
「でもお前、ねえお前、誰か男を好きになったんじゃないだろうね」
「母さん、遅かったわ、その言葉」
「静かにお話し」
「あたし毎晩あのことを思い出すの、朝から晩まであの人のそばで寝てる時のこと。誓って言うけどあたしは彼が気に入っているの、とっても、とっても、とってもね。あたしのいい人、私はあの人とっても好きなの」(以下繰り返し)
この曲をソプラノ、テノール(2人)、バリトンの4人で歌います。何とも美しいメロディーにこういう世俗的な歌詞を乗っけてしまうおおらかさ、寛容さ、は上記の説明通りです。
ほかの曲名を何曲かあげておきます。
「我が胸のうちの悩みを」
「嫉妬を最初に見つけたものは」
「私は恋におち」
「これほど美しく立派な女神たちは」
等々、きわめて洗練された歌唱と演奏で当時の世俗が表現されています。以前にも書きましたが中世のヨーロッパって非常に興味があります。面白そうですから、、、
UCCD-3529 (DECCA RECORD)