武久源造さんがモーツアルトの「きらきら星変奏曲」を当時のピアノシステムであるピアノフォルテで録音した!このCDに録音されている曲はそれだけではもちろんありませんがそれだけでこのCDは一聴に値します。例によって武久さん自身のライナーノートから抜粋を
「このCDにおける私の取り組みは、作品の解釈、編曲または作曲、そして即興演奏の3要素を、プログラム全体に有機的に組み入れることである。作品の解釈とは無論、その曲が書かれた時代の様式に忠実に演奏することであるが、さらにそこに、より少ない分量ではあるが、私自身の即興、及び編曲を織り込む。その即興や編曲は、共に弾かれている過去の作品とマッチするものでなければならないが、同時に<今を生きる私の音楽>でもある。それらが<場違い>でなくある種の一貫性を持って響きうるかどうか、それがこの録音での私の挑戦である。~中略~ それぞれの曲間に、私自身の即興演奏を挿入した。このように異なる調性の曲の間に即興的<カプリッチョ>を差し挟むというのはモーツアルト自身しばしばやっていたことでもある。また、(中略)曲によっては(杉山加筆)繰り返しにおいて、モーツアルトの譜面にはない装飾を加えたり、ある場合には大胆な変奏を施したりしている。これらにおいては、曲が持っている性格というか、内容自体が奏者の”遊び”を要求しているように思えたからである。(中略)録音の現場ではいつでもそうだが、許された短い時間に楽器も変化し、私自身も少なからず変わる。注意深く聞いてくださる方にはそれを感じ取っていただけることと思う。しかしそれはどう変わっていくのか。いつも祈るような気持ちで録音開始の合図を待つ。(中略)結果は聴取者の皆様の判断に委ねたい。」
言ってみれば非常に大胆な試みなのかもしれません。あのモーツアルトの譜面通りでなく、楽譜が訴えてくる内容に応答して自らの感性を移入し新しい何かを創っていく!勉強しつくしたからこそできることだと思うのです。CDの封を切り始めて聞いた武久さんの「きらきら星」!思わず笑ってしまいました。こんなことする人だったんだ!ってのが一番の感想です。そして、ジャケットから想像するイメージは氷解したのです。(ホントは、松本に演奏会でこられたときのお話で、大分堅苦しい人ではないなということはわかっていたのですが、、、)モーツアルトが生き生きして聞こえる!そして楽しい!
まさに作曲者が望んだ仕上がりではなかったか?と思うのですが、、、
このCDにも懇切丁寧な武久さん自身のモーツアルト、音楽についてのノートが24ページ分付いていますからお得だと確信いたします。もちろん演奏も!現代のピアノとは一味も二味も違う音、そしてタッチに驚かれるはずです。共演の硲美穂子さんのバロックヴァイオリンも聞きものです。
武久さんのCDをこれで8枚紹介しました。どれも私の大切なアルバムです。何でこんなに良いのでしょうかね?また近々ご紹介すると思います。
ALM RECORDS ALCD-1028