その5 インプラント

唐澤 るつ子

挿絵最初に述べた、かけてしまってブリッジにした箇所は、私の歯の中での一番のネックで、 絶えずトラブルを起こす場所でありました。しょっちゅう排濃がありそれでも抜歯せずにすむよう、 いろいろ処置してくださり、大切に扱うようにとの先生のご指示で、不安で、 あまり右では食物をかみませんでした。

しかし、とうとう持ち堪えられず、抜歯して入れ歯をするというはめになりました。 インプラントという技術は、いつ頃から始まったものでしょう。その以前から新聞や、 先生のところの本で、知識として知り、いいなあという思いはありました。 しかし、保険がきかず高価な技術ですから、私には“高嶺の花”無念に思いながら 最初は入れ歯を作っていただきました。ところが、私の欠損した歯の構造上、口中長々と金属が渡り 、合う合わないではなく、もう入れ歯を入れたというだけで、ストレスがたまり 我慢がなりませんでした。友だちが、「気の強いお姑さんと、入れ歯は我慢が肝心」と言ってくれたのですが、どうしようもなく、食べる時には外し、人前に出る時だけはめ、しかも大口をあけて笑わない と自分に言い聞かせていました。左ではかめていましたから、事は足りていたのです。

しかし、一年近くも入れ歯をとったまま放っておいていいのかという思い、 人間の体は左右均等に使うのが原則だろうし、またこのまま左だけを酷使したら、 左もだめになるのではという危惧感がありました。 迷った挙句、 もう本当に私としては、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、 インプラント治療に踏み切ることにしたのです。残された人生の食という面で、 “かむ”ということの重要さにお金をかけるのはぜいたくではない。 今まで、大患をしたことがない自分自身へのほうびと思い、夫をやっとこ説得しました。

治療して8カ月、結論を言えば、グー(good)ではなく、ベスト(best)です。 長いこと放っておいたので、歯ぐきがやせてしまい、先生は手術に本当にご苦労なさったこと と思いますが、とてもうまく入れてくださいました。最初こそ舌をかんで痛くてたまりませんでしたが、 それにもなれ、今は何の違和感もなく、何でも普通に左右どちらでもかめることの幸せをかみしめています。

それにつけても、この治療方に保険のきく日がくると良いと思います。 ますます増大する医療費ではありますが、事は、命の源の食物を入れる関門の治療ですから。