毎年5月の連休の前後に開催されている小さな音楽会?があります。写真の合唱曲集「白いうた青いうたをいっしょに歌おう」という会なのです。場所は松本市のシアトルというレストラン。夕方からそこに歌好きが集まって食事(もちろんワインも!)しながらこの楽譜集に載っている曲(合計53曲あります)を時間の許す限り歌っていくのです。ソロで歌う人、仲間と合唱する人たちもあれば、楽器で演奏する人たちもいます。全く自由です。この会の目玉は作曲者の新実徳英先生が毎回お越しになり、自らが司会進行され、解説、批評はもちろん、時には指揮までしてくれるという非常に贅沢な内容になっているのです。信じられますか?著名な作曲家がわざわざ来てくださること自体が不思議なのですが一緒に食事しながらプライベート音楽会を進行してくれるって!それには新実先生のこの「白いうた青いうた」という合唱曲集に対する深い思いがあると伺いました。
 この曲集はもちろん歌詞と曲で成り立っているのですが、実は新実先生がまずメロディーを作りその曲想からイメージをふくらませた詩人の谷川雁(たにかわがん)先生が詞をつけるという方法で作られています。コンパクトにまとめられた新実先生の曲の美しさもさることながら、谷川先生の詞の深遠さには驚くばかりです。作詞に当たっての谷川先生のコメントを以下に抜粋して掲載します。
「前略~あなたのおじいさん、つまりぼくが十代だった戦争のさなかでも軍歌ばかり歌ったわけではなく流行の歌曲も映画の主題歌も気晴らしに愛唱しましたが、心にしみるものはむしろ外国ののりんとした歌曲で、それでもどこか借り着をしているよそよそしさがつきまとうのを避けられませんでした。せまる死の影と首すじをなでる十代の風。その両方をなめらかに一つにまとめる母国語の歌がほしいとおもいました。
 戦争が終わっても、十代の明暗を率直に告白して気品を失わない歌は多くはありません。この世への敏感な反応をかくして静かに紅潮している時期は、自分の方から愛とか恋とかのことばは持ちだせません。ヴェトナム難民、ベルリンの壁、旧満州孤児、などの時事問題にある叙情性を表現するのも年少者にはむずかしいことです。それだけにアドレッセンス前期の感情を年長者が歌のかたちできっぱり<代弁>してやる必要があるのです。でないとやたらにどなったりだまりこんだり、、歌うことのない心ができてしまう恐れがあります。~後略」
詩人としての凛とした態度が伺えます。
すべての歌詞をご紹介したいくらいなのですが、、、たとえばベルリンの壁の崩壊をテーマにして作られた「壁きえた」の歌詞をご紹介しましょう
1,にしと ひがし
  そらを つなぎ
  よるの みやこ
  かべは きえた
  
  どよめく とおり 
  ぼだいじゅ ゆれる
  グーテンナーベント!ローザ!
  いきて あえた
 
  もえろ まわれ
  ひとの まつり
  もえろ かわれ
  ひとの れきし
2,みずは ながれ
  あきの かおり
  おかの はてに
  さくは いらぬ
  こちらの パンと
  そちらの ミルク
  グーテンモルゲン!ペーター!
  いきて あえた
  もえろ まわれ
  ひとの まつり
  もえろ かわれ
  ひとの れきし
如何でしょうか?意味深い詞だと思いませんか?この詞が美しい曲に乗っけられるのです。
お二人は108曲を目指して創作活動をされていましたが95年2月に谷川さんの死によって53曲で完結せざるを得なくなってしまいました。そして新実先生曰く、「歌を探しての私自身の道のりはここで大段落です。いずれの日にか再会することになりましょうが、それはいつのことかわかりません。それまで、私は「白いうた青いうた」を育てることに力を注ごうと思っています」
という理由で新実先生はこの会を続けておられるのです。
 先生との写真を載せようと思い、デジカメを持参したのですが、不覚にも飲み過ぎてしまいかないませんでした。また来年!ということにします。