武久さんのCDはライナーノートを読むこと自体が非常に興味深いことは何回も書かせて頂いた。このCDもその例に漏れない記述がある。収録曲目については、17世紀ドイツのオルガン音楽における夜明け、真昼、黄昏をそれぞれ代表するシャイデマン、ブクステフーデ、ベームのオルガン作品で構成されている。今回の録音に際して、生身の人がふいごをこぎ続けてオルガンに空気を送り続けたそうである。オルガニストの小野真木子という方だそうであるが、この時代になぜ?人が?
それに対してこのような記述がある。「オルガンは時に途方もなく大規模なものとなったが今世紀になって電動モーターが発明される以前は、主に人力によってふいごが操られ、パイプに風が送られていたのである。前者の場合風はモーターの回転の影響を受け、多かれ少なかれ、なにがしかの振動を含むことになる。これに対して後者の場合、風の乱れはほとんど無くなる。そして、風圧と風量とは、あたかも人が息をしているかのように周期的に変化する。さらにこの周期は奏者や音楽の要求に応えてかなり自由に案配することができる。」
だそうで、きわめて繊細な風のコントロールができたそうである。これにより、音は信じられないほど透明感を増しいわゆる息づかいを感じさせるような演奏に一歩近づけるのだそうだ。
とにかく、音楽をとことんまで吟味して行こうとする武久さんの情熱には頭が下がる。知らないことを興味深く読むことによって得られる充実感もストレスばかりの生活の中では非常に有り難い妙薬である。オルガンの響きは心を癒してくれる。音楽をする人が温かいとその癒しは何倍にも大きくなることを改めて感じている。
ALCD-1003